日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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湿原生態系は生物多様性の宝庫ですが,さまざまな人間活動や気候変動に対してはと平野 聡(国際農林水産業研究センター) ても脆弱です。アメリカ南部フロリダ州の南端に位置するエバーグレーズ大湿原は「草の大河」とも呼ばれ,総面積が約10,000km2にのぼります。これは東京都の約5倍の面積です。この湿原は淡水低湿地と海岸性マングローブ林からなっており,多くの絶滅危惧種の生息地として UNESCOの「国際的に重要な湿地帯」などにも指定されています。幅にして約80kmにもおよぶ大湿原が,大量の水をフロリダ湾にゆっくりと注いでいます。全体の標高差は2m程度ですが,わずかな地形の違いで多様な景観を呈しています。1900年代初頭からこの広大な湿地帯に排水溝をめぐらして水抜きを行い,農業生産に利用しようとする事業が展開しました。隣接する大都市マイアミとの水資源の競合も激しくなり,約半世紀を経て「草の大河」の水の流れは大きく変わってしまいました(図1)。エバーグレーズの生態系そのものが変容してしまったことに人々が気づくまでには長い時間がかかりました。 1992年にアメリカ南部を襲ったハリケーン・アンドリューがエバーグレーズを直撃して大きな爪痕を残すと,傷ついた湿原生態系,特に湿原植生を回復させるために,できるだけ正確かつ詳細な湿原植生マッピングを行って現状を把握する必要性が唱えられました1)。ところが,この大湿原は足場が悪くアクセスが難しいことに加えて,多数のアリゲーターが生息しているため現地調査は大変に危険なものでした。さらに正確な地図作りに欠かせない地上の目印がほとんどありませんでした。そこで,ジョージア大学リモートセンシング地図科学研究センター(Center for Remote Sensing and Mapping Science: CRMS)が,さまざまなリモートセンシング技術を駆使してこれらの難題に取り組むことになりました。衛星リモートセンシングはこのプロジェクトで有用な枠組みを提供し,植物生態学者による現地調査や近赤外カラー空中写真の判読などに大いに役立ちました(図2)。 詳細な湿原植生マップが整備されると,以前から危惧されていた外来植物の広がりがGoogleEarth へGoogleEarth へ 107 フロリダの湿地帯で起きていること エバーグレーズ湿原生態系を脅かす外来植物

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