日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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I君は、私が京大に着任した年(2004年)に4回生として研究室配属になった。I君の修論研究テーマは、「衛星画像を使ったマングローブ林の分布図作成」であった。2004年12月にスマトラ沖地震が発生し津波で大きな被害が生じたが、沿岸にマングローブ林のあった地域では津波被害が軽減されたとの報告があったので、東南アジアにおけるマングローブ分布の現況と変化を調べてみようと考えたのである。 マングローブ林のように足を踏み入れるのが難しい場所でも衛星画像は簡単に手に 田村 正行(元・京都大学) 127入るので便利だが、解析結果を検証するには現地調査を行わねばならない。東南アジアにいきなり行くのはいろいろと困難を伴うので、まずは国内最大のマングローブ林がある西表島で現地調査を行った。西表島の仲間川河口には100 haを超えるマングローブ林があり、そこに立ち入るには山道を数km歩いた後、急坂の踏み分け道を下っていかなければならない。平地まで降りるとマングローブ林に入るのであるが、帰り道が分からなくなるといけないので、マングローブに目印の紐を付けながら進んだ。ところが調査を終えていざ帰ろういうときになって、いつの間にか目印を見失ってしまったことに気がついた。I君は「先生、帰れるんでしょうか?」と不安そうであったが、私はともかく「大丈夫、何とかなる」と答えて帰りの目印を探した。しかしどうしても目印が見付からなかったので、斜面を薮漕ぎして真っ直ぐ北に上ることにした。北側斜面の上には帰りの山道があると分かっていたからである。西表島にはハブがいるということが頭の片隅にあったが、幸いにも小一時間ほどの薮漕ぎの後、ハブに出会うことなく山道まで戻ることができた。その後、帰りの山道でI君の携帯に就職の内定が出たとの知らせが入った。便利な時代になったものである。 西表島で踏査したマングローブ林 西表島マングローブ林で学生と現地調査

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