日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
145/222

図1に信濃川水系千曲川の河道掘削の例を示します。高水敷に残る旧水路に出水が流 河川生態系は、出水のような自然作用が、河川地形、植物及び動物に影響を与えることが特徴です1)。河川中流域においては、出水が河道内地形を変化させ、それに伴い植物を流下させ、砂礫河原を形成します。形成した砂礫河原には砂礫河原を好む動植物が生息・生育します。時間の経過とともに植物が成長し、砂礫河原、草本、そして樹木へ遷移し、砂礫河原を好む植物・動物の生育・生息環境が減少します。しかし、出水により草地や樹木が流下し、砂礫河原が再生され、砂礫河原に依存する動植物の生育・生息環境が維持される仕組みが中流域の河川生態系の特徴といえます。 近年、河川中流域の河川生態系に大きな変化が生じています。高度成長期以降、流域開発に伴う土砂供給量の変化や河川内の砂利採取により、河床が低下し、河川の平常時の水路と高水敷(出水時だけ水が流れる土地)の比高が増加しました。その結果、高水敷においては、出水が高水敷を流下する機会が減少し、砂礫河原の再生や樹林が過剰に繁茂する「樹林化」の問題が全国の河川で生じています2)。樹林化の進行に伴う砂礫河原の消失は、砂礫河原に依存する動植物の生育・生息を脅かします。また、樹林化は、出水の円滑な流下を阻害するため、治水上の問題も生じます。河川管理の際には、洪水の危険性を減らすため、樹林帯の伐採を行いますが、伐採と伐採後の樹木の処分には高額の費用が必要となります。適切なコストでの河川管理が求められている「樹林化」は河川管理上の大きな問題となっています。 これらの問題に対応するためには、出水のような自然作用を活用した樹林化の抑制が必要です。そのために、河川と高水敷の比高を解消する河道掘削(河川内の比高が高い箇所を掘り下げる工事)が全国で行われています。 傳田 正利(土木研究所) GoogleEarth へGoogleEarth へ 139河川内の植生はどうなっているのか? 生物多様性と洪水流下に影響を与える河川内樹林 の過剰繁茂

元のページ  ../index.html#145

このブックを見る