日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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9 バイオマス燃焼による炭素放出量は全世界で年間2.5〜4ギガトン1) 2)と推定されていますが,世界各地で行われている農業残渣焼却による放出はその20%以上を占めると推定されています1)。このように,炭素循環を考える上で農業残渣焼却は無視できGoogleEarth へGoogleEarth へ 林田 佐智子(総合地球環境学研究所/奈良女子大学) ない問題ですが,それだけではなく,燃焼から発生する大気汚染物質が農地や近隣の都市に流入し,健康被害を引き起こすことも環境問題として重要な側面です。総合地球環境学研究所では実践プロジェクト「大気浄化,公衆衛生および持続可能な農業を目指す学際研究:北インドの藁焼きの事例(略称Aakash)」を2020年度から実施し,この地域での稲藁焼きの実態調査や大気汚染への影響を研究しています(Aakashはサンスクリット語を語源とする言葉で,空を意味します)。本稿では,Aakashで取り組んでいるパンジャーブ地方における稲藁焼きの原因と,その大気汚染への影響について解説します。 パパンンジジャャーーブブ地地方方のの稲稲藁藁焼焼きき インド北西部からパキスタン北東部にまたがるインダス水系中流域はパンジャーブ地方とよばれます。その大部分は年間降水量600ミリ以下の半乾燥~乾燥地帯です。インド国側のパンジャーブ州・ハリアーナー州では,1960年代からいわゆる緑の革命と呼ばれる時期に取られた生産性重視の政策によって,小麦とコメの二毛作が作付け体系として定着しています。イギリス統治時代から灌漑設備が進んでいたことや,筒井戸が普及したことから,順調に小麦とコメの収穫量が伸び,現在では「インドのパンかご(bread basket)」と呼ばれています。 しかし,半乾燥地域において政策的にコメの作付けを推進したことから,様々な問題が顕在化しています。この地方で地下水位の低下が深刻であることはよく知られています3) 4)。稲科の作物の連作という意味では土壌劣化も深刻な問題で,化学肥料を投北インド・パンジャーブ地方における稲藁焼きがもたらす環境への影響 インドの農地で起きていること

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