日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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GoogleEarth へGoogleEarth へ 153湖沼や溜池の生態系において水温は重要な影響因子です。その理由の一つとして,一般に温度が10℃上昇すると生物活性はおよそ2倍になるという関係があり,植物プランクトンによる栄養塩の取り込み1)も,底泥の脱窒菌による窒素放出2)もこれが当てはまります。また,一般に生物にはそれぞれ成長と繁殖に最適な温度範囲があり,例えばアオコを作る藍藻の一つであるミクロキスティスが増殖する最適水温は 28℃から 32℃程度と報告されています2)。魚類についても変温性に起因して生息可能な温度範囲や致死限界温があり3),一般に適水温が10℃付近のサケ類等の冷水魚は狭温性で水温に対して敏感であり,適水温が 20℃付近の温水魚は広温性で水温に対して鈍感といわれています4)。加えて,同一の魚でも孵化や摂餌,産卵などの成長過程や行動で適した温度があり,例えば,鮎の場合は孵化最適温度が19℃,摂餌好適温度が15~22℃,産卵水温が14~19℃,半数致死温度(LT50)は高温が22.0℃,低温が2.1~9℃などと報告されています5)。さらに水温変化が湖水の停滞(成層)や鉛直循環(混合)を起こすことから生じる生態系への影響もあります1)。例えば,夏季に表層水温が上昇し,これによって湖水が停滞して成層化すると,底層への酸素供給量が不足した状態になります(嫌気化)。こうした嫌気条件下では底泥からのリンの溶出が促進され,これがアオコの形成を助長する一方2),水質浄化につながる脱窒菌による窒素放出は嫌気条件下で進行します6)。また,湖水の成層状態では,浮力の小さい植物プランクトンは沈降する一方,アオコを形成するミクロキスティスやアナベナは浮力が大きいために表面に浮くといった物理的作用もあります2)。 このように湖沼や溜池の生態系において水温は重要な因子ですが,そのモニタリングについては環境監視体制が進んでいる日本でさえも主な湖沼に限られ,他の多くの湖沼(ダム湖や溜池も含む)では水温データがほとんど整備されていません。また,湖沼は外岡 秀行(茨城大学) 高水温がアオコ増殖を助長する―湖沼生態系と水温の密接な関係と衛星湖沼水温データベース日本編 アオコがますます増殖する?

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