日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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作野 裕司(広島大学) 161 私が大学の教員になったばかりの2000年頃、郵政省通信総合研究所(当時)から島根大学に赴任されたばかりの故「古津年章」教授から「SARによる汽水域の風速観測」を一緒に研究しようと話をいただいたことがあった。 通常、衛星から水上風速分布を測る場合は、散乱計という衛星センサを使うのだが、解像度はせいぜい25km程度であり、宍道湖(5km×20km程度の広さ)のような湖では1画素にも満たないので利用できないという問題があった。SARは数十mの解像度なので、湖の風速観測にはちょうどいい解像度といえる。衛星からの水上風速推定は、簡単にいうと風速に対応する水面の粗さ(さざ波)をレーダ反射率(散乱係数)から計算するというものである。ただ、風向によって水面に対するレーダ散乱の度合いが異なるので、一方向しかレーダを照射できないSARは、風向とレーダ照射方向の相対角がある程度一定でなければ風速が測れないという難点がある。ちなみに散乱計は3方向からレーダ照射をするので、モデルマッチングで風向も測ることができる。SARによる風速推定はこの相対角を見極めて検証するという点が研究対象になった。我々は宍道湖や中海において船に風向風速計をとりつけて、数点で数年間繰り返し取得した実測データと衛星・航空機から得られるSAR画像とを突き合わせてモデル化して、約10年間かけて複数の論文に成果をまとめた。筆者はそれまで水質のリモートセンシングしか研究したことがなかったが、故古津教授のおかげで違う分野の研究への関心が芽生えたとともに、こうした地道な現地検証実験がどの分野でも大事であることを実感した経験であった。 中海における風速検証実験の一場面 SARによる水上風速推定のための検証実験の思い出

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