日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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作野 裕司(広島大学) 衛星による海の水質推定は1970年代から行われており、リモートセンシングの中でも古い歴史を持つ研究(海色リモートセンシングなどと言われる)の一つである。衛星から海洋の水質(特を植物プランクトン量の指標となるクロロフィルa[Chl-a])を測定するための海色センサはあるものの、河川や湖沼の水質を測定するための専用の衛星センサはない。 そこで、筆者はこれまで高解像度の衛星データを使って、河川や湖沼の水質を安定的に測定するための現地調査(主に水上からの分光反射率調査と水質調査)を日本のみならず、世界で行ってきた。その中で、最も衝撃的だったのが、世界の2か所での体験である。まず、カリブ海の島に位置するドミニカ共和国の「オザマ川」という都市河川の調査である。なぜ衝撃的だったかというと、それは私たちがイメージするきれいなカリブ海から一歩入った河川周辺のスラム地区に広がるゴミの山の存在である。普段、日本の河川や湖沼で海洋プラスチックや水質汚濁問題に関連した調査を行っているが、これらの問題は日本のような比較的きれいな環境で行っていてもその重要性はわからないと肌で感じた。もう1か所は、南アフリカ共和国の北東部に位置する「バールダム」のダム湖である。もともと「バール」とは現地用語で「濁った」という意味らしい。その場所に行くと、確かに真っ白く濁った貯水池が広がっていた。濁度計を入れると「1000 NTU」という目を疑う数字になった。日本で富栄養化水域と呼ばれる湖や河口でもせいぜい10 NTU程度でどんなに高くても100 NTUは超えた水を見たことがなかった筆者にとっては、驚き以外なにものでもなかった。さらに驚いたのが、船着き場では真緑の絨毯のように、「アオコ」が発生していて現場で見たことのない分光反射率を示していた事実である。 私がかつて論文で読んだことのある「富栄養化水に泥を人為的に添加していった時の極めて濁った状態の分光反射率」がそこにあった。「これか!」と現場の水で初めて体験した衝撃的な体験であった。 164オザマ川沿いのゴミの山(左)とバールダムの場所による極端な水色の違い(右) ドミニカ共和国と南アフリカ共和国の河川・湖沼調査 における衝撃体験

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