日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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井上 吉雄(東京大学) 165 筆者は植物生態系・環境や作物情報のリモートセンシングを主な研究分野としているが、趣味的カヌーイストでもある。北から南まで多くの川を手作りのカヤックで数日かけて下るソロツーリングをしてきた。釧路川では原生林的な雰囲気のなかアオサギの声を聴きつつ下り、湿原ではキタキツネにテントを脅かされた。雄物川では洪水による河川の変容を目の当たりにし、ボラの大群に遭遇した。北上川は穏やかで自然豊かな河岸地帯が長く続きあまり命にかかわる緊張感はなくゆったりと下る。宮川や四万十川では水の透明度の高さに感動しつつ、川底の魚を追って素裸で潜った。長良川では中流に鳥類の豊富さに驚くような区間があったが、これは鳥類の保護・禁猟区でまさに鳥のサンクチュアリになっていたことを後で知った。ひょっこりカワウソにも出会った。美しく活動的なカワセミは多くのいずこの河岸でも待ち受けてくれる。河川域が多様な生物の宝庫であることをいつも実感する。このように、カヌーツーリングは単に未知の流れを自力で下る面白さだけでなく、右岸へ左岸へとカヌーを操りながら、陸からは容易にアクセスできない河岸の植物、魚類、鳥類、爬虫類、昆虫類などに触れる絶好の機会である。 本書は危機的な状況にある生態系(問題生態系)を対象にリモートセンシングを主とする空間情報技術を使って把握・研究する活動を多く紹介している。人工衛星、航空機、ドローン、気球などを使って上空から広範囲を遠隔的に観測できることがリモートセンシングの最大の威力であ北上川(遠方に見えるのは岩手山) 清流豊かな四万十川(前方に次の沈下橋が見える) 大台ケ原を源流とする宮川 水上から見る河川生態系

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