日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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バングラデシュ~インドの沿岸にはベンガル湾に流入するガンジス川(パドマ川)・ メグナ川・ジャムナ川が広大なデルタ地帯を形成しており,バングラデシュは国土の約32%(47,201km2)がデルタにあります(図1)。同地帯の「シュンドルボン」(Sundarbans:ベンガル語で「美しい森」)は世界最大規模のマングローブ群生地で,ベンガルトラをはじめ生物多様性の宝庫とされ,1997年世界遺産になっています。 バングラデシュは長らく「人口過密」「貧困」で「洪水が多い国」として知られていますが,近年経済活動も活発化しています。シュンドルボン国立公園地帯は保全されているものの,それ以外の地域での土地利用変化は著しく,水田,エビ養殖池,麦作地,林地,塩生産地,湿地が広がっています。水田からエビ養殖池に変換した跡地は,塩類濃度が高い不毛の地になり,農民にとっては大きな貧困問題になっています。さらに,近年顕著となった温暖化に伴う海面上昇は2050年までに平均約30cmに達し,同国の約14%が浸水するとの予測もあります1)。海面上昇の影響で洪水リスクが高まるだけでなく,塩害等による作物生産へのダメージのため,海岸部貧困農民層を中心とした環境難民の発生も懸念されています。同国はこのように今後の気候変動の影響を最も受けやすい国の一つといわれています。 適正な土地利用管理と持続的な開発のための施策が強く求められており,沿岸地域の土地利用・土地被覆変化の定量的なデータは基盤情報として不可欠です。ここでは,筆者らがLandsat画像アーカイブと地上調査に基づいて,ベンガル湾岸の約20年間にわたる土地利用・土地被覆の変貌を調べた事例2)を紹介します。土地利用分類には多波長データを用いたセグメンテーションによるポリゴン単位の教師付き分類法3)を適用しました。巨大河川の低位デルタであるため,河川や干潟の面積については潮位変動の影響もありますが,同一季節(1/2月)の画像を用い,かつ地上データ・情報を援用することにより信頼性の高い分類結果が得られました。 井上 吉雄(東京大学) GoogleEarth へGoogleEarth へ 189バングラデシュ沿岸域で 起きていること バングラデシュ沿岸地帯の土地利用・土地被覆の変貌

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