日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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いずれのエリアでも居住地の拡大が明瞭で,エリアAでは単作農地→エビ養殖池,エリアBでは後背低地→農耕地,エリアCでは単作農地→塩田/エビ養殖池の転換がそれぞれ顕著でした。この変化の背景には急速な人口増とエビ養殖業の国際的なブームがあります。 エビ養殖業は短期的には収益性が高いため,主に単作農地を犠牲にして急速に拡大したのですが,都会の富裕者が農地を買い占めて大多数の農民が労働者化しました(図3b)。これは農民にとって一時的な収入増の機会となる面はありました。しかし,エビ養殖を継続すると塩類の集積や土壌の酸性化,病害が多発します。そのため持続性が低く,また,国際的なエビの市場価格の下落,あるいはコメ価格の高騰に反応した土地利用の変更が経営判断で強行されることが少なくありません。ところが,エビ養殖池を急に稲作に戻しても収量性は激減するため,結果的にエビ養殖にも稲作にも向かない不毛の土地へと劣化しています(図3cd)。特に農地を持たない農民は生活の糧を産む稲作もできず,貧困をより深刻化させる結果となっています。 このように,エビ養殖池の急増を含む土地利用の変化は,農地の劣化・消失,現地雇用の喪失と貧困化による社会不安,マングローブ林と生物多様性の劣化・消失,など数々の社会問題とリンクしていることが指摘されています4)。したがって,エビ養殖事業はこれらの問題も考慮した総合的な沿岸地帯開発計画のなかで適正化される必要があると考えられます2)。また,エリアBにみられるように,絶えず浸食と堆積が繰り返されているような地帯では,海面上昇の影響も考慮して,肥沃な土壌を保全する対策も急務になっています。 ここで紹介したベンガル湾デルタ地帯における後背低地やマングローブ林のエビ養殖池や農地への土地利用改変は,生態系や食料生産の持続性の劣化にも密接につながっています。そして他の多くの環境破壊問題と同様に,国内的な貧富の格差や土地所有制度に起因する問題や,現地の生態系・環境保全や生活向上を十分考慮しない資源搾取型の営利活動が背景にあることがうかがわれます4)。喫緊の全球的課題となっている気候変動は,人口増加と生活の豊かさを追求する活動とそれに伴う土地利用・土地被覆の改変や温室効果ガスの大量放出等の必然的結果ながら,その悪影響は特に途上国や貧困層にとって大きな脅威になっているのが現実です。 土地利用・土地被覆の改造とその背景にある問題は,国連により提唱されているSDGs (Sustainable Development Goals; SDGs(2015 年国連サミット)の17目標にも多面的に関与するもので,現地住民の生活と生態系保全の確保・向上の実現に向けた総合的な施策が求められます。 ■文 献 1. Ministry of Foreign Affairs of the Netherlands. Climate Change Profile: Bangladesh. pp. 1-28, 1932018. 2. Islam, M.R., Miah, G., Inoue, Y. Analysis of land use and land cover changes in the coastal

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