日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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山野 博哉(国立環境研究所) 195 多くのサンゴは、年に1度、初夏の満月の後に一斉に産卵を行います。卵と精子が入った「バンドル」を放出し、それが海面で受精を行います。受精卵はプラヌラ幼生となり、海流に乗って流されて離れた場所に定着します。バンドルは大量なので、海面でスリックを形成します。どのサンゴ礁でどのぐらい産卵が行われているか、サンゴの産卵スリックを衛星から検出したいと考えるようになりました。2006年ごろのことです。 まずはサンゴのバンドルの分光特性を知りたいと思い、2007年6月に、沖縄県阿嘉島にある阿嘉島臨海実験所を訪問しました。サンゴは満月の数日後に産卵することは予想されていますが、実際に産卵するまではひたすら待ちの日々です。やっと産卵した日、サンゴが放出した卵やバンドルを集めて実験室でスペクトル測定を行いました(写真1)。海面に集まっているスリック(写真2)もバケツですくって測定しました。その結果、サンゴのバンドルやスリックは、緑と赤の波長帯の情報を用いれば白波や海に浮かんでいる海藻などから区別できることがわかったのです。 これで衛星データで検出できると思ってデータを検索したのですが、いくら検索しても見つかりません。そもそもの衛星の回帰日数が10日以上であることに加えて、サンゴの産卵の時期は沖縄の梅雨にあたって雲が多いのです。衛星データを用いてサンゴの産卵を検出できるまでは、衛星コンステレーション(多数の小型衛星の同時運用)の出現を待たなければなりませんでした。2016年にPlanet社のDOVE衛星のコンステテーションの運用が開始され、日単位での観測が可能となったのです。 当時私の研究室の学生だった佐久間東陽さんと、サンゴ産卵をどうしても見たいんだけれどDOVEで見えないかな、などと雑談していたところ、佐久間さんが探して見つけてくれたのです!2019年5月18日の画像にスリックらしきものが映っていました。早速緑と赤のバンドの値を用いて処理したところ、見事スリックだけが浮かび上がってきました。喜び勇んですぐに佐久間さんと阿嘉島でお世話になった波利井さんと論文を執筆し、その論文は無事2020年に出版されました(Yamano et al., 2020, RSE)。15年越しに(ささやかではありますが)夢がかなったのです。 写真1:サンゴのバンドル 写真2:港に打ち上がったスリック 15年越しの夢―衛星センサによるサンゴ産卵の検出

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