日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
202/222

井上 吉雄(東京大学) 196 バングラデシュ~インドにまたがるベンガル湾沿岸には世界最大のデルタ地帯がある。ヒマラヤ山脈から流れ来るガンジス川とブラマプトラ川が何百万年にもわたって運んできた土砂が堆積して形成されたデルタには、水路が網の目のように広がり、世界最大規模のマングローブ林が密生している。マングローブ林はサイクロンなどの暴風雨に対する天然の防波堤的な役割を持つと同時に、多様な水性・陸生動物の生息地となっている。ベンガルトラ、ガンジスカワイルカ、ベンガルヤマネコをはじめ、多くの哺乳類、魚類、鳥類、爬虫類の希少種や絶滅危惧種が生息している。インド側の一部エリア(シュンドルボン国立公園:Sundarbans National Park)は世界自然遺産に登録され(1984)、その後、ユネスコの生物圏保護区(2001)とラムサール条約(2019)にも登録されている。 ガンジス川沿岸域には見渡す限り浅い水域が広がっており、独特の茫漠とした景観になっており、ひとびとの時間もゆっくり流れているように見える。河岸の形状はサイクロンがあるたびに大きく変容し、それに伴って土地利用までも変化する形で農業が営まれ、そこにエビの養殖事業などが参入して、複雑な様相を呈しているが、現地の普通のひとびとの豊かさには必ずしもつながっているようには見えなかった(本書解説「バングラデシュ沿岸地帯の土地利用・茫漠と広がるガンジス川沿岸の様相は洪水で一変する 木に牛糞を塗り付けて乾燥させた燃料棒を運ぶ ガンジス川生態系で生きるひとびと、そして学ぶこと

元のページ  ../index.html#202

このブックを見る