日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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井上 吉雄(東京大学) 207 本書では農地、林地、草地、乾燥地、沿岸、河川、湖沼、都市などさまざまな生態系における種々の問題の実態把握や解決策に向けた取り組みが紹介されている。問題への視点は食糧危機、炭素循環と温暖化緩和、生物多様性保全、生活環境の安全確保など多様であるが、その理解と解決策にはいずれもリモートセンシングを機軸とする空間情報技術が重要な役割を果たしている。 リモートセンシングは人工衛星、航空機、飛行船、ドローンなど各種のセンサ搭載システム(プラットフォーム)と、可視~近赤外~熱赤外~マイクロ波にわたる広い範囲の光・電磁波センサが使われる。リモートセンシング科学はセンサ工学、ロケット工学や計算機工学(AI含む)などのテクノサイエンスが重要な基礎となすと同時に、地球環境の監視と保全、農林水産業支援、気象情報提供、防災支援、生物多様性保全などの広範な利活用に向けた応用科学でもある。 本書のキーワード「問題生態系」は、まさにそれらの具体的な応用場面での実態把握とソリューションに向け、ターゲットを「生態系」(生物・非生物の多くの要素で構成され相互作用しつつ変動するシステム)の問題とみる視点である。農業分野などでは長らく「低投入持続可能」「自然共生」「地産地消」などの概念が提示され、筆者も関連する研究事業に多くかかわってきた。最近になって、2015年に国連が地球温暖化緩和策や生物多様性保持、食糧生産の持続性などを包含する形で改めてSDGs(持続可能な開発目標)として提唱してから、政府や産業界も巻き込んだ形で多面的に対応策が検討されている。これらの目標の実現には問題を生態系の構造と機能の変動を時空間的にとらえることが不可欠で、リモートセンシングを機軸とする空間情報技術はこれらの目標実現のためのソリューションに活用できる有力なツールのひとつになっている。1972年に最初の本格的地球観測衛星Landsatが打ち上げられて以来、現在も多くの衛星が打ち上げられ日々継続的に地上を観測し、膨大な画像データが蓄積されている。一方、近年、進歩の著しいドローンも低高度から高解像度で生態系を観測可能な有力ツールであり、研究と実利用が進みつつある。また、AI等多数の高解像度衛星センサによる開発した先進的リモートセンシングドローンの事例(下) 地球観測イメージ(上)と筆者らが生態系問題のソリューションとツール

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