日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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ⅰ井上吉雄(東京大学)近年、世界的に熱波、猛暑、洪水、干ばつ、森林火災などが増加し、生活や産業に対する地球温暖化の影響を身近に感じることが増えています。大気CO2濃度は上昇を続け(1750年に約278ppmであった全球平均値は2022年に417.9 ppmまで上昇)、それに伴う温暖化傾向は人間活動に起因することが科学的事実と認識され、2016年に発効したCOP21「パリ協定」のもと、温室効果ガスの排出量を削減する「低炭素化」政策が喫緊の人類的課題となっています。しかし、その対策には従来型の経済産業活動や生活様式の変容が不可欠なため、各国で設定された施策は「産業革命以前と比べて,地球の平均気温の上昇を2℃未満に抑える」という大目標の実現には不十分とみなされています。一方、世界人口は2011年11月に70億人を記録し、11年後(2023年11月)には80億人を超え、2050年には97億人に到達すると推計されています。地球環境問題は人口増加と,豊かさ・便利さの追求欲に起因する農・鉱・工業を含むすべての経済産業活動に起因するものです。石油資源の大量放散だけでなく、農耕地の拡大や森林等生態系資源の劣化は大気質・水質の汚染などの環境負荷も招来し、土地利用の大幅な改変と生態系の破壊は結果的に多くの場面で負のフィードバックを招いているのです。事実、世界各地で農業生態系、森林生態系、湖沼生態系、都市生態系等々、各種の生態系における土地、水、植物、環境因子等の質と量の劣化が顕在化し、大きな問題になっています。本書では、人類の衣・食・住の生活基盤や経済活動の基盤となる地球上の生態系のうち、特に本来の機能や持続性に問題が発生している生態系を「問題生態系」と呼んでいます。国連が掲げたSDGs(持続的開発目標; 2015年)を待つまでもなく、これらの生態系の構造と機能の保全は、食糧生産や生物多様性、気象環境等を通して、人類の生活と生存基盤を支えるうえで不可欠な役割を持っています。このような生態系問題の解決には、リモートセンシングをはじめGIS・モデル等空間情報技術によって生態系スケールの実態を広域的にとらえ、時空間的に計測・解明・診断することが重要な科学技術的役割となっています。本書は人為的・自然的問題を抱えるさまざまな問題生態系を対象として、人工衛星画像をはじめとするリモートセンシング技術を駆使した実態把握や問題解決に向けた取り組み事例を広く一般に紹介する目的で編纂しました。異分野や非専門家にも分かりやすい画像中心のスタイルで、世界の多様な問題生態系や関連する特徴ある生態系を対象とする衛星画像と解説記事を短くまとめています。本書で紹介しているのは地球上で生起している多くの生態系問題のごく一部の事例ですが、広く学生や一般の方々に地球環境、生態系、食料生産などの問題とそれをとらえるリモートセンシング技術の活用に関心をもっていただくきっかけになることを願っています。なお、本書の内容は(一社)日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会の活動をベースとしたものです。-人類の生存と活動をささえる生態系とその危機-問題生態系とは?

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