日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
45/222

GoogleEarth へGoogleEarth へ GoogleEarth へ 39井上 吉雄(東京大学) 焼畑農業はラオス・タイ・ベトナム・中国・バングラデシュ・インドなどアジア山岳地帯の広範な地域において、重要な食料生産システムとして行われてきました。しかし、1980年代から、利用面積の拡大と休閑期間の短縮が急速に進んできました。それに伴い、地力の低下や雑草繁茂などのために土地生産性・労働生産性が低下し、また、森林資源の劣化、二酸化炭素の放出、生物多様性の低下も懸念されています1, 2)。 これら途上国では食料生産、森林資源の維持と地球環境問題に配慮した生態系管理法が不可欠ですが、その基礎となる広域的な土地利用と生態系炭素量の実態に関する科学的データは世界的にきわめて不足しているのが現状です。 図1はラオス山岳地帯の焼畑生態系の様子で、右上図は火入れ時期である3月のアジア域のエアロゾル分布推定図です(2012年の例)3)。 宇宙から広域かつ長期にわたって生態系を観測できる地球観測衛星は、このような生態系問題の理解と解決にとってきわめて有力です。ここに紹介する事例は、30年以上にわたる衛星画像データを解析することによって、山岳焼畑地帯における土地利用の状況と生態系に蓄積された炭素量を定量的にとらえたものです。 長年月にわたる地球観測衛星画像の解析結果を、地上調査データや現地実験結果と組み合わせることにより、食糧生産と森林資源の持続性および大気中の二酸化炭素の削減を同時に成立させ得る環境破壊リスクの少ない生態系管理シナリオを提示しました1, 2)。 Landsatを中心とする地球観測衛星の画像を、多波長データを用いた領域区分化処理など新たな手法を駆使して、年々移動する焼畑利用地の区画を高精度で抽出しました。それに基づいて、焼畑面積、連続利用期間、休閑期間、樹林地の樹齢分布を空間的に明らかにすることに成功しています。これにより、東南アジア山岳部の焼畑面積の推移(図4)や土地利用パターンごとの生態系炭素の変動(図5)を明らかにしています。 図7はさまざまな土地利用と生態系管理シナリオにおける地域スケールの炭素蓄積量と収益性の増減を試算したもので、作付前の土壌炭素量(42トン)を基準とした35年間の地域全域平均値で比較しています。長期休閑地が短期休閑に組み込まれると(シラオスの森で起きていること 東南アジア山岳地帯の焼畑生態系の役割と問題

元のページ  ../index.html#45

このブックを見る