日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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吉川 沙耶花(長崎大学) 74 ブラジル法定アマゾン内における森林消失の最も主要な直接的要因は、農牧場地の拡大である。特に、大規模な機械化農業によって生産されている大豆と、牧畜によって生産されている肉は、ブラジル経済に大きく貢献している。農牧地拡大による森林消失を食い止めるため、政府介入による複数の政策(先住民のための新たな保護区の設置、森林破壊に対する罰則の強化と規制の強化、地元自治体への制裁、アマゾン大豆モラトリアムおよび牛の飼育協定など)によって2005年以降森林消失のスピードは緩やかになった。しかし、政治動向によって土地利用開発が左右されるという不安定な状況であるため、森林消失がゼロにはならず増減を繰り返すという状況が続いている。 そこで、ブラジルを対象に環境政治・リモートセンシング・開発・農林業を専門とする4つの分野の研究者が文理融合で共同研究を進めている。リモートセンシング分野を担当している筆者は、法定アマゾン内にあるマットグロッソ州とパラ州の牧草地及び大豆耕作地の土地利用変化に着目し、3つの期間に区分された環境政治動向(①森林減少に成功した労働者党政権前期(2003年~2011年); ②森林破壊防止の制度が弱体化した労働者党政権後期からテメル政権への移行期(2011年~2018年);そして③森林破壊が再び増加したボルソナーロ政権期(2019年~2021年))がLANDSAT衛星データの解析により得られる土地利用変化へどのような影響を与えているのかを明らかにする試みを行っている。 森林を農地に転換するアマゾンの土地開発のアクターは、小農と中・大規模土地所有者の大きく2つに分けることができる。多くの中・大規模土地所有者は、輸出を目的としたアグリビジネスを展開しており、伐採された森林の多くを牧草地へ変換している。しかし、50ha未満の小農が多い開発地では、貧困層による土地利用開発(違法・合法どちらも含む)や小規模流通を目的とした農地開アマゾン(マットグロッソ州とパラ州)の大豆耕作地の分布 アマゾン(マットグロッソ州とパラ州)の牧草地の分布 ブラジル法定アマゾンにおける 土地利用変化と政治動向

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