日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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草原生態系は,陸域の約1/3を占める巨大な生態系の一つです。1970年代以降,世界の草原生態系では,主に人為的な影響によって土地劣化・砂漠化が進行しており,各地GoogleEarth へGoogleEarth へ 川村 健介(広島大学) 80でその対策が求められています。その中でも,我が国への黄砂の飛来源にもなっている中国東北部やモンゴルの半乾燥地草原では,急激な飼養家畜頭数の増加(過放牧)の影響で土地劣化・砂漠化が進行しているといわれています。この草原生態系を保全しながら,持続的な利用(放牧,採草)の両立に向け,衛星リモートセンシング技術による土地利用の年次変化や草原生産力のモニタリングがこれまでにも多く行われてきました。 図1は,中国とモンゴルのLandsat画像上に,現存する沙地・砂漠の分布を重ね合わせたものです2)。沙地・砂漠は,年間降水量が400 mm以下の場所に存在し,その外縁部から徐々に周辺の草原生態系に拡大しつつあると考えられています。その一方で,二酸化炭素の増加に伴う地球温暖化が,植物の生育環境にはポジティブに影響し,陸域全体で見ると2000年以降の北半球では植物の純一次生産量(NPP)が増加の傾向にあるという報告もあります3)。図2は,MODIS-NPPプロダクトで見た2000年と2006年のNPPの分布とそれらの差分画像です2)。モンゴルでは2000年以降もNPPが減少の傾向にありますが,中国の東部では一部を除いて増加の傾向にあることが分かります。中国内蒙古自治区の草原について,過去13年間(2002–2014年)のMODIS正規化植生指数(NDVI)の年次変化の傾向を見ると(図3),多くの地域でNDVIが増加の傾向にあることが見て取れます。内蒙古自治区では,2004年以降,砂漠化防止へ向けた様々な政策(定住化,放牧地の採草地利用)が進められてきました。これらの政策と気象環境の変化によって,草原の回復傾向に向かい始めたのかもしれません。しかし,放牧が盛んに行われている中央地域では,現在も土地の劣化・砂漠化が進行していると考えられます。この草原生態系を保全しつつ持続的に利用するためには,広大な草原の現況を正確・迅速に知らせる必要があります。そのため,今後も衛星リモートセンシングへのニーズはますます高まっていくものと考えられます。 土地劣化・砂漠化が進行している半乾燥地の草原 モンゴル草原で起きていること

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