日本リモートセンシング学会・問題生態系計測研究会
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降水量がきわめて少なく植物の大部分が生育しない砂漠地帯の砂漠土は、栄養塩類が 抜けていないため潜在的には耕作可能である1)。作物を生産する上での最大の制限因子は水であるが、潅漑水の導入によって土壌塩類化と土地劣化を生むリスクを伴う。水資源開発の規模が大きいほどその代償が大きい例をエジプト西方沙漠でみることができる。 1990年代にエジプト政府は、将来の人口増に備えて西方沙漠地帯の農業開発と定住化を目的とする巨大水資源開発プロジェクトに着手した。一つ目のトシュカ・プロジェクトは、ナセル湖からトシュカ低地を経て、ハルガ・オアシスの谷を通り、ファラフラ・オアシスに至る低地帯へナイル河の水を引こうとする壮大な事業である2)(図1)。2011年1月のエジプト革命後に事業は失速し、トシュカ低地に出現した人造湖群と明渠の水路周辺には広大な塩類集積地が残された(図2)。二つ目の東オワイナット・プロジェクトは、比較的浅い深度で存在するヌビア砂岩の良質な地下帯水層を掘削することにより、西方沙漠のど真ん中に出現した農地開発事業である。東オワイナット地区の農地は拡大を続けており(図3)、ここから最も近く、水脈の下流に位置するハルガ・オアシスと水利の競合が起きることは避けられない。 2015年12月に新大統領によって打ち出されたエジプト全土農村部の電源開発・農業生産拡大に向けた『150万フェダン・プロジェクト』3)により、ハルガ・オアシスにも大きな変化が起きている。大貯水池が出現し、農耕地の拡大が急速に進んでいる(図4)。その規模と変化の速さが環境へもたらす影響は、衛星画像によって注視していく必要がある。(※1フェダン=4,200m2) 渡邊 眞紀子1・杉村 俊郎2(1首都大学東京、2日本大学) GoogleEarth へGoogleEarth へ 93エジプト西方沙漠ハルガ・オアシスをとりまく 3つの巨大水資源開発プロジェクト 巨大水資源開発のゆくえ

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